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ヴェネツィア ときどき イタリア

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タイトルに偽りあり!?でも大満足の「ツァーのスタイル」展、プラート

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14-18世紀イタリア&ロシアの芸術とモード
プラート、織物博物館
2010年1月10日まで

Lo stile dello Zar. Arte e moda tra Italia e Russia dal XIV al XVIII secolo
Museo del Tessuto, Prato
19 set – 10 gen 2010
www.lostiledellozar.it

・・・どこから見ようか、迷い箸ならぬ、迷って思わず足がもつれてしまう。
たとえば一番右端は、1336年の、祭壇装飾布(フィレンツェ・アッカデミア美術館蔵)。中央に「聖母戴冠」両側に聖人が並び、天使が祝福、一番上には一列、聖母マリアの物語絵が並ぶ構図は、同じ時期のテンペラ祭壇画などでよくあるものだが、それがすべて刺繍でできている。106x440cmのどこを見ても気が遠くなるほどの作業だが、その中で、聖母とキリストの胸には奇石が光り、また特に聖母のマントは白地に百合の花を十字型に並べた模様が散り、清楚ながら豪華だ。




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が、全体には刺繍ものは少なく、展示の主役は織物。

面白いのは、それらの織物が、同時代の絵と合わせて展示されていること。

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たとえば、Giovanni del Boiardoという画家の「聖カテリーナ」のテンペラ画(15世紀初め)の両脇に、聖女のまとう服の模様と酷似したランパ織り(lampasso)が。1つは、幾何学的バラ模様の、そのスタイルはよく似ているが、よく見ると聖女のほうには「火の鳥」もモチーフに入っている・・・と思うと、ちゃんと織物のほうも1方は「火の鳥」入りのものが。
そしてさらに、火の鳥の代わりに鷲、そして獅子や、シュロの葉も加わった応用編が続く。

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ちなみに、ランパ織り(イタリア語はlampasso、ランパッソ)は、縦糸・横糸それぞれ少なくとも2つ以上使ったもので、やろうと思えば簡単な道具と手作業でもできる平織や綾織りと異なり、これは専用の織り機と熟練した腕が必要になる。

Sano di Pietroのテンペラ「聖母戴冠」(1450-55年、シエナ国立絵画館蔵)では、キリストのブルー地に金模様のマント、聖母の鳥と花の散ったマント、その2人の背後を飾る布は赤地に鷲。
並んで展示されているのは、「ざくろの枝と野バラ模様のビロード」(ヴェネツィア15世紀後半、エルミタージュ蔵)、「ざくろと星模様のビロード」(同)、でこれはたとえば、テンペラ画の右端に跪く聖人のマントの模様によく似ている。

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あるいは、Girolamo da Santacroceという画家の小さな作品「若き殉教者」、(1540年、エルミタージュ蔵)のマントは、織り幅いっぱいの大きな、松ぼっくりともざくろともされる模様が太く蛇行するリボンの上に登場するもので、「グリッチャ」(a griccia)と呼ばれる。1つの模様が始まって終わるまでに1m以上あり、それだけ織る技術が複雑に、難しくなる。

または、布地と、完成品との組み合わせ。

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ヴェネツィア派無名の画家による「聖母子」の横には、pianeta(ピアネータ)と呼ばれる聖職者の祭礼服(フィレンツェ?16世紀後半、エルミタージュ蔵)。こちらは、前述の「グリッチャ」と似たような模様ながら、その「ざくろ」が移動せずに、立て横にきっちり並んだもの。

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・・・とまあ、ここまでは、実はタイトルの「ロシア皇帝」色がほとんどなく、まるで「イタリア織物美術史」の復習・まとめのよう。だが、テクニックと模様と、その実用とをバランスよく見せている展示は◎。
すでに大満足気味で、2階(primo piano)へ上がる。

ここで初めて、ロシアとイタリアの経済、政治、そして文化的関係が紹介される。
古くはモスコヴァ時代から、ジェノヴァ、ヴェネツィア両国は既に黒海の港町と通商を行っていた。1543年にヴェネツィアで発行された、「ヴェネツィアからターナ、ペルシア、インド、そしてコスタンティナポリへ」という本では、単に旅に関する記述だけでなく、各地の町や人の様子、歴史なども紹介されている。
その本を始め、西洋で発行された「モスコヴィア(ロシア)」に関する記述や地図、あるいは外交書簡などが、ビロードや正装に混じって展示されている。そういえば、「天正少年使節団」のときもそうだったが、「世界発見」時代の当時は、未知の地方や民族と出会うと、その服装に関してもかなり詳しく記録しているのが面白い。

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時代とともに、ビロードや、ランパの模様も変化を見せる。大きな松ぼっくりまたはざくろは、それぞれがくっつき合って境目がわからなくなっていく。これはちょうどニットの編み目のように見えることから「ニット風」(a maglia)と呼ばれる。

このセクションの主役は、16-17世紀に、イタリア製の布を使ってロシアで縫製・刺繍加工を行ったもの。Felonというマント(皇帝用?)やチュニックなどが、やはり似たような模様の布とともに展示されている。

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また、17世紀に入ると、Gros de Tours(グロ・デュ・トゥール)と呼ばれる、一種のタフタの応用が登場する。バラやカーネーションの散る、軽やかでカラフルな色彩は、時代の確実な変化を反映している。

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第3セクションは、16世紀からピョートル大帝にいたる、宮廷のファッションがテーマ。

ここで大きなサプライズ!
卒論のときに何度も紹介した、チェーザレ・ヴェチェッリオの「古今東西世界の服装」、それの水彩着色版が展示されていた!!!もちろんガラスのケースに入って、「(ローマの)現代の貴婦人」のページが開かれているのだが・・・ああ・・・全部のページをめくってみたい・・・まさかここで展示されているとは思っていなかったので、嬉しかった。

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もう1つ、ピエトロ・ダヴァンツォによる、織物で模様を織りこむ理論と方法を詳細に説明した手書きのマニュアル、「絹織物の構造規則」(1753年、ヴェネツィア・モチェニーゴ博物館蔵)も大変貴重な展示といえる。
あとは18世紀に流行する、ビザール(Bizarre)と呼ばれる空想的な模様や、シノワズリの実例。

この部屋には、ピョートル大帝の服装などがいくつか展示されているのだが、それに関しては、いま1つ?だった。確かに、襟ぐりや袖口、ベストなどの刺繍は豪華だが、生地自体は地味な混紡の素材を使ったもので、せっかくのここまでの展示に比べいまひとつちぐはく。
かつ、たまたま今年続いた、ロンドンのV&A博物館の「ツァーたちの壮麗」アムステルダム・エルミタージュ美術館の「ロシア宮廷にて」展、それぞれあまりにも豪華だったためもあり、比べると完全に迫力不足だった。中途半端すぎて、ここはなくてもいいくらい。

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最後のセクションは、「ロシアのコレクショニズム」として、壁紙用の布地が4種、紹介されていた。

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実は最初、ビロードの模様だけでなくテクニックも含めて書いていたのだが、長くなりすぎたので割愛した。
各種ビロードについては、またあらためて、紹介することにしたい。

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(写真はすべて公式HPから。このうち小さい写真は、HPでExhibitionをクリックし、さらにsecution1, 2,..の中を見ると下のほうに写真があって、大きくきれいな写真を見ることができる。)

24 novembre 2009
by fumieve | 2009-11-25 08:45 | 見る・観る
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